もしも我が家に猫がいたら

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顆粒タイプのダシをこぼした。
ザラッと軽い音を立てて足元に茶色い粉末が広がり、強い香りが立ち込める。
粉を踏まないよう慎重にその場を離れ、急いで掃除機を取りに向かう。

「にあー」

リビングで寝ていた猫が、ダシの香りを嗅ぎつけて鼻をヒクヒク動かしながら直進してきた。
キッチンとの仕切りの柵は全く役目を果たさず、軽々と超えられる。

水分で溶けてしまってはいけない。猫を牽制しつつ、手早く掃除機で吸い上げる。
猫は器用なステップで吸込み口を避けながら、周囲の床をうにゃうにゃと舐める。

こんな時のために、キッチン用のハンディ掃除機を買おうか。そんなことを検討する。

ーーー

キッチンに掃除機をかけながら、もしも我が家に猫がいたら、と空想した。きっとこんな攻防戦が繰り広げられただろう。
掃除機のパイプを顆粒のダシがザラザラと音を立てて通過する。
平和で静かな我が家。ハンディ掃除機は必要ない。
その他
公開:19/06/01 17:15

ケイ( 長野 )

ショートストーリー、短編小説を書いています。
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テーマは「本」と「旅」です。

2019年3月、ショートショートコンテスト「家族」に応募した『身寄り』がベルモニー賞を受賞しました。(旧名義)
2019年12月、渋谷TSUTAYAショートショートコンテストに応募した『スミレ』が優秀賞を受賞しました。
2020年3月、ショートショートコンテスト「節目」に応募した『誕生会』がベルモニー賞を受賞しました。

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