僧の名は
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「いざ、勝負!」
若い侍は飛び上がり、真上から大根を振り下ろした。
年老いた僧は素早い身のこなしでそれを避ける。
残された木桶は大根に触れると、真っ二つに分かれた。
侍の腕は尋常ではない。
更に僧に向けて真横に大根を振るった。
老僧は今度は避けずに木桶から黄色っぽい大根をつかんだ。
「何っ」
若侍から驚きの声が上がる。
若侍の鋭い大根の刃を老僧の大根は優しく受け止め、そして、絡みついた。巻き取られるように若侍の手から大根が落ちた。
「参りました」
若侍は平伏した。
「私を弟子にしてください」
老僧は首を振った。
「見ての通り、わしは刀を捨て、仏門に入った者。仏弟子になりたいわけではあるまい」
「それなら、せめて、その柔らかくしなる大根の秘密を教えてください」
「ああ、これはただの漬物じゃ。なまくら刀ではなく、いい刀を漬けるといい」
僧の名は沢庵といったそうだ。
若い侍は飛び上がり、真上から大根を振り下ろした。
年老いた僧は素早い身のこなしでそれを避ける。
残された木桶は大根に触れると、真っ二つに分かれた。
侍の腕は尋常ではない。
更に僧に向けて真横に大根を振るった。
老僧は今度は避けずに木桶から黄色っぽい大根をつかんだ。
「何っ」
若侍から驚きの声が上がる。
若侍の鋭い大根の刃を老僧の大根は優しく受け止め、そして、絡みついた。巻き取られるように若侍の手から大根が落ちた。
「参りました」
若侍は平伏した。
「私を弟子にしてください」
老僧は首を振った。
「見ての通り、わしは刀を捨て、仏門に入った者。仏弟子になりたいわけではあるまい」
「それなら、せめて、その柔らかくしなる大根の秘密を教えてください」
「ああ、これはただの漬物じゃ。なまくら刀ではなく、いい刀を漬けるといい」
僧の名は沢庵といったそうだ。
その他
公開:19/06/01 15:52
大根侍
名作絵画ショートショートコンテストで「復元師」が太田忠司賞を受賞しました。
キンドルでSF短編を発売中。https://amzn.to/37n3Bjv
「ショートショートの花束」8と9にものっていますので、よろしく。
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