あめのむらくも

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小雨の境内に遠ざかっていく足音。賽銭箱に入れられた五円玉をひょいと摘んで、先ほどの小僧の事を思い出す。
「明日の運動会、お父さんが急な仕事で応援に来られなくなったから雨で延期にして下さい」
確かそう願っていた。参拝の作法を無視して土下座しておった。久し振りにいい土下座を見させてもらった。
あんなに熱心に雨を降らせろと願う人間を見るのは久し振りだ。400年、いや、もっとか。侍の若者が、ここ熱田神宮に住まう我、天叢雲剣に向かって「桶狭間に大雨を降らせてくれ」と願っておったのは。
あんまり真剣に頼むから大雨を降らせてやったら、後日、戦に勝ったとかでお礼に塀を作ってくれた。
確か、信長…。そう、信長塀だ。今の小僧の土下座、あの時の信長によく似ていた。
よし。久し振りに雨を降らせてやるか。本気の土下座に応えてやろうぞ。
大した礼は期待出来んがな。
父の応援を背に騎馬戦で奮闘する小僧が目に浮かぶわい。
ファンタジー
公開:19/06/01 12:57

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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