盗まれた本

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「ソラさん、一冊ありません」
後輩のミキは焦った様子だった。
貸し出してもいない本が返ってこない。
図書館職員になって2年。
先輩達からは、たまにあると聞いていた。
「明日先輩達に報告しましょう。どうするかはそれからね」
冷静に努め、ミキを落ち着かせた。
1ヶ月後。
男の子が無くなった本を返しにきた。
ミキは私の後ろで、叱りつける顔になって前に出た。
私はミキを止め、男の子を外のベンチに連れていった。
「ばあちゃんが病室で、思い出を記した本だから恥ずかしくて取り戻したいって」
涙をポタポタ落とす。
「でも、返してくれたのね。それはなぜ?」
お母さんのようになだめた。
「みんなのだから駄目だと思って」
「おばあさんはなんて?」
「残念だって」
後日、男の子を呼んだ。
「図書館にはナイショね」
持ち主の元へ返る。
本にとっても私にとっても嬉しい事だった。
この判断に私は悔いていない。
その他
公開:19/06/01 12:20

小脇 進( 埼玉県 )

小脇 進と申します。
まだ小説も、ショートショートも書くのは初心者です。
※最近は詩作を中心に活動しています。

「分かってないなあコイツ」
と思っても、温かく見守っていて下さい。
よろしくお願いします。
                                                                               
2019年5月19日(日)17時55分頃より始めました。
以上です。

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