赤いスコップ

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昨日の夜降った雨が蜘蛛の巣にキラキラと輝いていて綺麗。
今日は日曜日で、娘と一緒に庭いじりをしている。
「そうそう、上手ね」
2歳の娘はお気に入りの赤いスコップで、わたしが花を植えるのをお手伝いしてくれている。
庭付き一戸建てに住むのは、結婚前からの夢だった。
それを実現してくれた夫には、本当に感謝している。
庭を色とりどりの花で飾り、愛しい娘と過ごす毎日は幸せすぎて怖いくらいだ。

いつの間にか庭に出てきていた夫に後ろから抱きしめられた。
「あなた?」
とても優しい、安心する腕。
「もうやめよう」
夫は何を言おうとしているのだろう。
「あの子はもういない。いないんだよ」
夫の声があまりに深刻なので、わたしは可笑しくなる。
「冗談言わないで。そこにいるじゃない」
春の暖かい風が庭木を揺らす。
持ち主のいないスコップが、音を立てずに転がった。
その他
公開:19/06/01 07:41
#子供 #母娘

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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