お弁当

学校給食がなかった時代、私は昼休みになるといつも本を読んでいた。
「お前、弁当食わないのかよ」
隣の席の男子にそう聞かれ「私、本の虫なの。だからこれが私のお弁当」と言って誤魔化した。
勿論、本を読んでお腹が膨らむわけではない。でも気を紛らわせるにはこれしかないのだ。
「なぁ、本の虫って米食べるか？」
「食べるけど、少食だから朝と晩だけでいいの」
彼の質問に嘘を吐いた。お腹がきゅ～っと鳴るがこれは本の虫の鳴き声だって誤魔化した。
「お握り１個やるよ。俺もう腹一杯だから」そう言って彼は教室を出た。
貰ったお握りは凄く美味しくて、それを伝えると彼は毎日私にお握りを１個くれるようになった。

あれから数十年が経ち私は彼と結婚した。
今、私のお腹には赤ちゃんがいる。もうすぐ生まれるからか食欲がない。
彼は私の枕元にお弁当箱を置いた。中には小さなお握りが入っている。
彼の優しさは昔から変わっていない。