歪な三角形に関する予感と確信の顛末

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 スーパーのトイレに入ると、壁の黒いタイルが一枚剥がれていて、足元に黒いタイルの破片が散らばっている。僕は、つま先で破片を集め、もとの形に整えてみた。すると、タイルの真ん中に歪な三角形の空隙が残った。辺りには他の欠片はなかった。僕は奇妙な感じがして、足元のタイルと壁のタイルの落ちた跡とを、交互に見比べていた。
 翌朝、右目の視野の真ん中に、歪な三角形の欠損が生じていて、景色の真ん中に歪な黒い三角形が出現していた。僕は、予感と確信とに突き動かされるかのように、昨日のスーパーに走った。タイル用接着剤を購入してトイレに入り、落ちているタイルの欠片を一つずつ拾っては、壁に貼り付けていく。全ての欠片を貼り終わると、壁に歪な三角の空隙ができた。僕は、その空隙に視野の欠損をはめ込もうと試みた。
 だが、両者の形は微妙に異なっていて、歪な三角形の空隙が生じてしまった。僕はがっかりして、眼科に予約を入れた。
その他
公開:19/05/30 07:22

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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