チックのパン屋 ~二種のパン~

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その老婦人は毎朝、同じ日の記憶が戻るパンを注文する。

それは旦那さんが亡くなった日だ。

そんな悲しい日を毎日思い出したいなんて、よほど旦那さんの事が憎かったのだろうか。

僕は遂に我慢できず聞いてしまった。すると老婦人は微笑んだ。

「映画のエンドロール見てると、映画の内容全て思い出すでしょ。それと同じね。辛くて悲しい日なんだけど、あの人の全てを思い出せるの。愛してたなって」

僕は誤解していた自分を心で百発殴りながら、老婦人にお礼を言った。

次の日老婦人は来なかった。電話が鳴り、今日は年長の孫が運動会の代休でお世話するのでパンは要りませんと。

僕は電話を置くと、パンを二種類タイムトースターで焼いてバスケットに詰めた。
「チック出前してきていい?」
「いってらっしゃ~い」

いつものパンと、もう一つのパン。

老婦人と話したかった。
映画のオープニングもいいですよって。
ファンタジー
公開:19/05/29 20:49
更新:19/05/30 08:23
スクー 年長さんの代休

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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