或る麺麭屋の娘の独白
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貴方は何時も笑つて居る。
火の入つた竈を見遣り、私は頬杖を突くのです。
「端子さん」
貴方が呉れる聲を、今かヽヽと待ち詫びて。けれど出逢へば又、貴方は果て無き戦の只中へ。
貴方は誰より優しくて、皆が貴方を慕ふのに。傷付き蝕まれ、力尽きる貴方を、さも当然と傍観する。背中に歓呼を送り、時に群がり、貴方の挺身を喰ひ物にしながら、誰一人、貴方の孤独な窮地に、疑問を抱く事も無ひ。
貴方の崩れた首が墜ち、挿げ替えられる残酷。何故其処に、死と再生の痛苦を感じ無ひのか、、、。
いつそ目覚め無ければ。願ふ私は愚かでせうか。
私はしがなひ麺麭屋の娘。竈の蓋を開けたなら、自ら焼ひた貴方の首を、渦中へ放る他に無ひのです。
嗚呼、貴方は又、あの聲で私を呼ぶ。其れは最早、先の貴方では無ひと云ふのに。
護る事をのみ喜び、心通わす友も求めぬ。貴方は無垢で哀れな戦士。此処で流す私の涙は、貴方の頬へ、乾ひた塩を振るばかり。
火の入つた竈を見遣り、私は頬杖を突くのです。
「端子さん」
貴方が呉れる聲を、今かヽヽと待ち詫びて。けれど出逢へば又、貴方は果て無き戦の只中へ。
貴方は誰より優しくて、皆が貴方を慕ふのに。傷付き蝕まれ、力尽きる貴方を、さも当然と傍観する。背中に歓呼を送り、時に群がり、貴方の挺身を喰ひ物にしながら、誰一人、貴方の孤独な窮地に、疑問を抱く事も無ひ。
貴方の崩れた首が墜ち、挿げ替えられる残酷。何故其処に、死と再生の痛苦を感じ無ひのか、、、。
いつそ目覚め無ければ。願ふ私は愚かでせうか。
私はしがなひ麺麭屋の娘。竈の蓋を開けたなら、自ら焼ひた貴方の首を、渦中へ放る他に無ひのです。
嗚呼、貴方は又、あの聲で私を呼ぶ。其れは最早、先の貴方では無ひと云ふのに。
護る事をのみ喜び、心通わす友も求めぬ。貴方は無垢で哀れな戦士。此処で流す私の涙は、貴方の頬へ、乾ひた塩を振るばかり。
ミステリー・推理
公開:19/05/27 21:10
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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