間違い

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広々した公園の木陰のテーブルでつばの広い帽子を被った女の人が本を読んでいた。その絵姿のような光景に惹かれて僕はその人の後ろを通りながらチラリと本のタイトルを盗み見した。『伊豆の踊子』川端康成。
家に帰って父の本棚を漁った。畳の上にひっくり返って、文庫本に目を通す。その本はあの女の人の声で文章を読み上げた。

日が沈んでから、僕は彼女がいた樹の下に戻った。鞄に語りかけた。「絶対にあの人だけを噛めよ」そして、ヘビを放った。
数日して、ヘビは仕事をやり遂げた。あの人が読む文章が全部あの人の声で僕に聞こえる。特に風呂に入っている時には最高だった。
その夜は、やたらとまとまりのない文章ばかり彼女は読んでいるようだった。耳をすませると「8点」「7点」という本人の声が聞こえる。
「村山、68点」
僕はギョッとして身体を滑らせ、湯船にごぼっと溺れた。
あの麦わら帽子の下が現国の島田先生だったとは。
ファンタジー
公開:19/05/27 15:27
更新:19/05/28 22:04

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