海をわたる僕ら

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明日だ。来た風に乗ろうぜ。力のかぎり羽ばたくんだ。

蝶は互いに声を掛け合う。季節は大きく移り変わっていた。体は飛べと叫んでいる。でも不安は拭えない。もしも力尽きれば…。眼前に望む海は果てしなく広い。

馬鹿馬鹿しい。おらあ、行かないぜ。

一匹が集団から離れた。とどまることの意味は百も承知。だからって、危険を敢えてなんて古くせえ。ひねて独りごちた瞬間、空から影が落ちてきた。

時おり、蝶の声が聞こえたりするんだよ。

今年ははぐれ者にもマーキングしたんだ。私が在野の研究者だからかな。習性に抗う力こそ気になって。急に君が会いたいなんて、なんか似てる気もするね。

叔父さーん!

港に入ってきたフェリーに、僕は手を振った。日本を発つ前に会っておきたかったのだ。デッキでカンカン帽が大きく振られると、ひらひらと眩い光が空へ跳ねて、消えた。

風だ。

羽を広げる音が満ち、青い世界に重なり合った。
その他
公開:19/05/27 12:55

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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