ブドウ屋さん

　公園の円屋根ベンチにブドウ屋さんがやってきた。
　魚みたいな目に縁無し眼鏡をかけたブドウ屋さん。ボウルに入ったブドウの粒は、大きいような小さいような。一粒一粒が別の夜空のような、どこかで繋がっているような。そんな黒。
「今夜は皆、同じ夢になるんだよ」
　ブドウ屋さんはそんなことを言って、僕らにブドウを配った。
　ブドウ屋さんのブドウを食べた晩、少しドキドキしながら布団に潜って、目を瞑った。


　夢を見た。


　金魚鉢から、お祭で掬った金魚が零れる夢。

　僕はその金魚が可哀想で、でも怖くて、トイレに流した。部屋に戻ると、また金魚が零れていて、またトイレに流した。

　すると今度はトイレから金魚が溢れてきて、いつの間にか僕は金魚だった。

　隣の金魚はヤックンだ。あそこにズッチもいる。皆でトイレに流されて、自由な水になった。

　海になっても、空になっても、マイちゃんのことがわかった。