まちがえたか。

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久しぶりに降りた故郷の駅は無人駅になっていた。
まぶしすぎる太陽が湧きあがる雲を溶かすように、五月の空は白い。
里山の緑と川のせせらぎ。風の中にはカブトムシを思い出させるにおいがあった。
単線をゆくオレンジ色の列車は新緑のアーチを抜けて、田植えを終えたばかりの田園を凱旋するかのように遠く、やがて見えなくなった。
私はひとり跨線橋から、もう身内は誰も暮らしていない故郷の町を見下ろした。
人も、商店もない駅前に、町営の生活バスがぽつんと一台。私は行先もわからないままそのバスに乗った。
初老の、兄によく似た運転手。
バスが懐かしい町を巡る間も、私は彼が気になって、信号待ちのときにぷーんと声をかけてみた。
彼は私に気がつかないのか、黙ったままで、またバスを発車させた。
結局誰も乗らず、誰も降りないままバスは、終点の役場に着いた。

「ぷーん(兄さんだろ)」

ぱん。
彼は、私を叩きつぶした。
公開:19/05/28 12:28
更新:19/05/30 08:59

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