チックのパン屋　～トースター～

はじめて出会った時のタックは足が魚だった。話を聞く所によると、現代のわらしべ長者になりたくて街に立って物々交換していたそうだ。昨日、王子様に恋をした人魚が現れて人間になりたいと言うので交換したのだそうだ。

なんだそりゃ。

翌日、気になって再びタックに会いに行った。なんと魚の尾ヒレは人の足に戻り、代わりに大きめのトースターを手にしていた。そのトースターで焼いたパンは、ある１日の記憶が見れる不思議なトースターだと言う。僕はピンときた。
「パン屋やらない？」
こうしてタックと僕は不思議なパン屋を始めた。

開店準備をしながら昔話をする僕達。
「もしかして、あのまま人魚だったらわらしべマーメイドとして有名になれたかもよ？」
タックは笑って首を振った。
「俺、カナヅチなんだよね」

今日も店内にパンの匂いが充満している。開店だ。
「いらっしゃいませ」
今日は王子様が奥様を連れて来店される予定だ。