妹の味噌汁

妹の味噌汁は高級料亭の味がする。
美味い。高級料亭には行ったことがないが、妹がそう言うのだからその味なのだろう。作るときはいつも昭和の名曲「ビューティフルサンデー」を歌いながら作る。おまじないらしい。
「もうすぐだな、結婚式」
「そだよ。レシピ書いとくからちゃんと味噌汁作ってね」
「ビューティフルサンデーとか歌わねーから」
「なに言ってんの、あの曲に合わせて作らないと高級料亭の味が出せないのよ」
「めんどくせーな」

妹の結婚式は、無事終わった。俺たちには両親がいない。だから俺が親代わりを勤めた。

朝。妹のいないキッチン。レシピのメモを見ながら味噌汁を作る。気づけば、あの曲を歌っていた。味見してみる。高級料亭の味だ。美味い。やっぱりおまじないは効くようだ。
一人で食べる朝食は寂しいものだな。俺はビューティフルサンデーを歌った。歌わなければよかった。
高級料亭の味噌汁が、しょっぱくなった。