喫茶店

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「いらっしゃいませ」
喫茶店に入ると、彼がそういった。
ここのコーヒーは、けっこう美味しい。
「今日はなにになさいますか」
「じゃあ、いつものと、あなたで」
「かしこまりました」
そういうと、彼は私の向かいの席に座った。
「驚かないんですか」
「お客様のためなら、なんなりと」
まもなく、ホットが一つ届く。
「ここのコーヒーは、美味しいでしょう」
そういって、彼は笑った。
ただ、今日私がここにきたのは、コーヒーを飲むためではない。
この思いを、彼に伝えるためだ。
いえる、いえるはずだ。
あれだけ家で練習したんだから。
「あ、あの」
私はそこまではいえたのだが、そこから先の言葉がいえない。
だが、彼は困った顔もせず、じっと私を見ている。
それが、余計に私を困らせた。
長い沈黙がおとずれる。
もう、なにをいうか分かっているだろうに。
しかし、彼はなにもいわず、いまも私の言葉を待ってくれている。
公開:19/05/26 16:03

ふじのん

歓びは朝とともにやってくる。

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