老紳士のパズル

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「私は拾ったピースでパズルをしています。最初に見つけたのは幼稚園の時。以来、見つける度に箱に仕舞っていましたが、次第に見つけにくくなり、年を取って、長い時間歩くこともままならなくなりましたので、終の棲家と決めたこの部屋の窓に、集めたピースを貼り付けて、完成を夢想しているのです。さあ、こちらです」
 老紳士が襖を開けると、テラス窓に貼り付けられた極彩色のピースが、外光を荘厳な輝きに彩っていた。私は言葉が出なかった。そんな私を彼は満足げに眺め、おもむろに、先ほど拾ったピースをスペースへ貼った。すると色調はより深く、輝きはより激しくなった。
「あと数ピースのようですね。完成したらすばらしい輝きを放つことでしょう」と私は言った。すると老紳士は微笑んで答えた。
「私は、窓の外が見たくてたまらないのです」
 私はその真意を測りかねた。
 部屋を辞去しその窓を外から眺めると、それは普通のガラス窓だった。
その他
公開:19/05/24 13:21

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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