赤いマフラー

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「こんにちは。宅配便です」
彼はいつものように元気でそういう。
「こちらにサインをお願いします」
営業スマイルとは思えないほど溌溂とした笑顔で、彼はそういった。
「ありがとうございました」
彼は帽子をとって小さくお辞儀をすると、また慌ただしく車に戻っていった。
彼が私たちの地域の担当になって、もう二年になる。
「こんにちは。宅配便です」
ある寒い冬の日、彼の声は少し震えている。
「こちらにサインを……」
私はすばやくサインをすると、箱を受け取って中にあるものを取り出した。
「あの、これ、これから寒くなってくるので……」
私は赤いマフラーを、彼に渡した。
彼はそれを、見つめる。
やがて、口が開いた。
「今日、よろしければ駅前で待ち合わせをしませんか。これのお礼もかねて」
彼は、ちょっと照れながらそういった。
もちろん、私はうなずく。
彼はきっと、このマフラーを着て、私に会いにきてくれるのだ。
公開:19/05/24 09:20

ふじのん

大学生

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