「エリザの独白と黙考」20の職業　⑲ベーカリーコンサルタント

最高のパンを家庭で。
最高のパンをレストランで。

パンのパンによるパンのための。

パンの思考をトレースするために、パンになる。
パンの恰好をして、バイトを雇い、こねてもらう。
冷暗と沈黙の中、エリザは数時間の時を過ごした。
発酵の瞬間、エリザは目が覚めた。

パンはパンであり、エリザはパンではない。
パンは主役であり、エリザは主役ではない。
エリザはパンを味わい、パンはエリザを味わっている。
エリザはパンを想うが、パンはエリザを想っているのだろうか。

エリザはエリザとしてのパンを伝えることしかできない。
パンとしてのパンを伝えることはパンにしかできない。
近似値――パンジチ――を求めるため、エリザはメニューの開発を進めていった。

パンライス、パンサラダ、パンスープ、パンワイン、パンパン。
試作段階のパンフルコースに手をつけたエリザは、喉の渇きを覚えてパンワインで口を潤すことにした。