変更線（ii）

トタン屋根の凹凸。近所の猫の模様。カタカナの『ミ』の上下。三川の悪戯がエスカレートし始めた。
謎の練習は順調らしく、３０秒の縛りは延びないが、平行以外の線も弄る様になった。時計の短針と長針。教会の十字架。天気図の等圧線。ＬＡＮケーブルの中身を裏返し、大学のサーバーがダウンした時は、俺もさすがにキレた。
「お前いい加減にしろ。人に迷惑掛けて、何が面白ぇんだ」
「大事な練習なんだ。本番でミスったらシャレになんねぇ」
三川はしつこく笑ってた。笑ってる顔の、眼は意味不明に真剣だった。
「あとちょっと。絶対『シマシマ』は役に立つから」

気持ち悪くなって、近付くのをやめた。
大学にはチクらなかった。警察にも届けなかった。手持ちのボーダー柄は処分し、視界に入る線は無視した。気が付けば変わってるかも。ノイローゼになり掛けた。
三川が大学をやめ、門を出る３０秒。窓ガラスに着地する雨の、軌道は上下逆だった。