マッチ売りの少女

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宵の口、往来で声を掛けられた。
「マッチおひとつ、いかがですか」
少女が小箱を差し出している。
童話みたいと感心するも、使い道が浮かばない。
結構です。立ち去りかけた私に少女は追い縋った。
「貴女に必要なものです」
振り返るのと、少女が一本擦るのが同時だった。

視界が朱赤に染まる。
一面、炎の海だった。
全身の皮膚が熱い。
ごうごうと火の焚ける音が四方から迫る中、唐突に穏やかな笑い声が響いた。驚き見回すと、火の粉の奥に人影が見えた。
あの人達は。

火が消えた。
目の前に少女の顔がある。
元の街路に立ち尽くし、私は泣いていた。
少女の指が私の頬骨の上にそっと留まった。火傷の跡が消えない場所。労るように、撫でられた。
「一箱で二十本です」
囁く少女に
「全部ください」
私は頷いた。

それから毎年、誕生日ケーキの蝋燭を必ずマッチで灯している。
七つの時に灰になった、生まれた家に帰るために。
ファンタジー
公開:19/05/19 13:39

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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