転手古舞(てんてこまい)-下

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「ほら、音外した。本番大丈夫か?」
「大丈夫だってば」
補欠だから、出番はまず来ない。判っててお互い口にしない。
編笠と女衣装を脱いだ彼女は、地方として胡弓に挑む。胡弓は元々男衆の手持ちで、今も女は少ない。踊りの上限は25歳。地方は無制限。当然競争が激しく、若い者に出番はなかなか回らない。
たった1年。彼女は相当頑張った。補欠とは言え、名を連ねるだけで至難だ。長老陣から毎日叱られ、それでも弓に食らい付いた。

「25まで、一緒に出たかったのに」
プロポーズを受けた日、横を向いて言った。
ここで謝ったら、彼女は俺を赦さない。俺も踊りに徹するのは今年まで。集大成の来年は、後輩指導に力を注ぎ、祭りを終えたら引退する。

今年は無理だが、来年こそ。
俺は編笠に黒の法被で男踊りを踊る。
彼女は顔を晒し、紺の着流しで胡弓を弾く。
結局俺は策に溺れた。街を練り歩きながら、きっと無数の眼が彼女に恋をする。
青春
公開:19/05/19 12:19
地方(じかた):舞踊の囃子方

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。

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