RED PERCOLATION #10

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ただなんとなく慣習から、本当を、嘘を、言い続けてきただけ。別にもう、必要はないのではないか。
村の寄り合いで、誰かがそう言ったのが皮切りだった。

正直村と嘘つき村。別に2つの村は、いがみあっていたわけではない。
ちゃんと交流もある。互いの村から結婚した夫婦もいる。
しかし、コミュニケーションは非常に混乱していた。

もう辞めよう、こんなこと。互いに言いたいことを言おう。
慣習の瓦解。心からのコミュニケーションを求め、その2つの村は暖かな平和へと向かう。

にも関わらず―。

未だに「正直村はどちらですか?」と聞いてくる旅人が後を断たないのはなぜなのだろう。

村人は黙って一方の道を指差し、旅人を見送る。
その道の先は、野獣の巣だ。村などない。

我々の村を、乱すな―。

ユートピアを創ろうと奮闘する際、その周囲を必ずディストピアにする人間の歴史。

嘘も、本当も、ない。

【ユートピア】
その他
公開:19/05/19 10:46

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