絵蝋燭
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「灯す物ではございません」
店内の薄暗さと、手近な蝋燭を見較べて思ったのを、読んだ様に当てられた。
「失礼。そういう品と承知ですが」
「浄土の光明は、下界の光に晒すと、濁るのです」
独り言とも応答とも取れる口調。細い指が蝋燭を掬い、絵筆で刷いて行く。
「とは言え、常人には暗うございますね」
ほわん。柔らかく朱色が灯る。
火を点けてはいない。蝋燭が――蝋燭に描いた鬼灯が、内から光を発している。
「蛍光塗料でも、入って……?」
店主は鬼灯を燭台に立て、次を取った。筆を洗いもせず、切れ込んだ葉と赤い花を描く。今度は爽やかな香りが立つ。
「蚊香龍(かこうろん)です。虫除けに」
「いや、生憎と金が」
「お持ちなさいまし」
銀の髪を靡かせ、店主は微笑った。底深い瞳が俄かに恐ろしくなり、蝋燭を手に表へ出た。
振り向けば、潜った暖簾は影も形もなかった。
冷や汗を垂れながら、盗みを企てた事を心底後悔した。
店内の薄暗さと、手近な蝋燭を見較べて思ったのを、読んだ様に当てられた。
「失礼。そういう品と承知ですが」
「浄土の光明は、下界の光に晒すと、濁るのです」
独り言とも応答とも取れる口調。細い指が蝋燭を掬い、絵筆で刷いて行く。
「とは言え、常人には暗うございますね」
ほわん。柔らかく朱色が灯る。
火を点けてはいない。蝋燭が――蝋燭に描いた鬼灯が、内から光を発している。
「蛍光塗料でも、入って……?」
店主は鬼灯を燭台に立て、次を取った。筆を洗いもせず、切れ込んだ葉と赤い花を描く。今度は爽やかな香りが立つ。
「蚊香龍(かこうろん)です。虫除けに」
「いや、生憎と金が」
「お持ちなさいまし」
銀の髪を靡かせ、店主は微笑った。底深い瞳が俄かに恐ろしくなり、蝋燭を手に表へ出た。
振り向けば、潜った暖簾は影も形もなかった。
冷や汗を垂れながら、盗みを企てた事を心底後悔した。
ファンタジー
公開:19/08/09 23:58
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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