墓の巨木

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 こんな夢を見た。
 父の墓石が巨木と重なっている。
「物質は同時に同位置を占めることはできないはずだ」と、僧の背に声をかけた。すると僧は墓の方を向いたまま、手を後ろに伸ばした。手にはどんぐりを連ねた数珠がかかっていたが、私が受け取る前に、巨木を駆け下りてきたリスに奪われてしまった。リスは、巨木の幹に突き刺さっている、たくさんの顔だけの蝉を足場に、するすると登って見えなくなった。
 僧は平然と墓石に酒や塩を撒き、深く一礼した。
「父はこの巨木を上って天国へ行きましたか?」「否」
「父はこの巨木と一体化して守り神となりましたか?」「否」
「父はこの巨木で調伏すべき祟り神となりましたか?」「否」
 三度「否」と言った僧は蝉の顔をしていた。
「この場所に木を植えたのはお前だな」
 と蝉の顔の僧が言った。
「父が生まれる前のことだ」
 と私は答え、顔だけの蝉を踏んで、巨木をするすると登っていった。
その他
公開:19/08/09 14:51

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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