妻のようじ

妻はそわそわしていた。
「楊枝がないから買ってくる」
『こんな時間に？」
返事もせずに妻は出ていった。気になり後をつける。
商店街の一角に行列が出来ていて、妻が並んでいた。私は近くにいた人に尋ねた。
「何ですか、あの列は」
『楊枝屋だよ』
「楊枝になんで行列が？」
『願かけの楊枝が人気なのさ。つまらない奴と縁を切る、つまらないようじ。大事な人を縁を結ぶ大事なようじ』
「はあ、そんなものに皆並んでるんですか」

あれ、店から出て来たのは妻と友人のヨウジじゃないか。まさか妻がヨウジと？つまらん私と縁を切ってヨウジと一緒になるつもりなのか。

「君、どういうことだ？」
『あなた？』
「君とヨウジは…」
『ヨウジさんが、奥さんと使いたいって言うから一緒に買いに来たのよ。会話もなくて生返事ばかり。詰まった思いを掃除したいってね』
そう言うと妻は買ったばかりの爪楊枝で、奥歯に挟まった言葉を掻き出した。