線香花火

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毎年盆が来ると、兄弟三人、実家へ雁首揃えるのが常だ。
日頃は干渉せず、てんでばらばらに暮らしても、示し合わせた様に集まる。特に約束なく、誰も欠けも遅れもしない。
「大兄ぃ、買って来た?」
「おぅ。一束な」
「けち臭ぇ。一人一束だろ」
「解いて使うんだから、充分だ」
「中兄ぃ、せめて金出してから言え」
この会話も例年通り。笑える程貧乏だった昔と違い、食うに困る身でもない。変わらない事も含めて、重要なんだと思う。
「よぅし、やるか」
束ねた紙を解き、各々手に持つ。去年のマッチと、水を張った空き缶。
線香花火。学校で友達が、打ち上げだのロケットだのはしゃいでいて、俺らもやりたいと駄々を捏ねたら、親父とお袋が買ってくれた。
「あ~この匂い、夏だなぁ」
「ほんと、思い出すわ」
「金、無かったんだよな」
静かに昇る煙。しみる量でもないのに、少し鼻に来る。
後は無言で小半時、それぞれの光点に向かい合う。
その他
公開:19/08/07 22:31

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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