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子供の頃、わたしは魚になりたかった。
祖父の好んで飲んでいたワインが真っ赤で、裸電球のあかりに透かすと夢のようだったからだ。祖母の花嫁衣裳だという、玄関のガラスケースに飾ってあった着物の裾にいた赤い金魚が、そのワインの色とそっくりだったからだ。
わたしは夢を見る。赤い魚は赤い海にいて、そこはむせかえるほどのぶどうの匂いに満ちている。青い魚は青い海にいて、そこは午前四時半の市場にあるような、磯の匂いに満ちている。金色の魚が棲んでいるのは熱帯の金色の海で、黒い魚は、光の届かない奥深くの海に棲んでいる。
海はいくつもあって、様々な魚がそこにいるが、わたしの場所だけはどこにもないのだ。
わたしは、魚になりたかった。
午前二時のすこし前。つけっぱなしのLED。白い光。とけたアイライン、ぼけたアイシャドウ。紺色のシーツに、尾を引いたファンデーション。
祖父の好んで飲んでいたワインが真っ赤で、裸電球のあかりに透かすと夢のようだったからだ。祖母の花嫁衣裳だという、玄関のガラスケースに飾ってあった着物の裾にいた赤い金魚が、そのワインの色とそっくりだったからだ。
わたしは夢を見る。赤い魚は赤い海にいて、そこはむせかえるほどのぶどうの匂いに満ちている。青い魚は青い海にいて、そこは午前四時半の市場にあるような、磯の匂いに満ちている。金色の魚が棲んでいるのは熱帯の金色の海で、黒い魚は、光の届かない奥深くの海に棲んでいる。
海はいくつもあって、様々な魚がそこにいるが、わたしの場所だけはどこにもないのだ。
わたしは、魚になりたかった。
午前二時のすこし前。つけっぱなしのLED。白い光。とけたアイライン、ぼけたアイシャドウ。紺色のシーツに、尾を引いたファンデーション。
ファンタジー
公開:19/08/05 22:31
いつも心におさかなを。
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