ヒト型ロケット・サイトー３

サイトー３の打ち上げ実験が始まろうとしていた。

サイトー３は、核融合エンジンを搭載した世界初ヒト型ロケットである。その時速32万キロ。問題は翼のセビロを高速で開閉させることでバランスをとるわけだが、素材のカーボンファイバーが硬化しバランスを失うという問題があった。サイトー３は「ナノレベルの柔軟剤を浸透させてはどうか」と研究者らに提案したが「洗濯するんじゃあるまいし」と嘲笑させた。だがサイトー３は「その選択が未来を変える」と豪語した。

サイトー３の打ち上げ実験が始まった。打ち上げ10秒前。研究者が見守るなかサイトー３は高速でセビロを開閉。砂塵を舞い上げる。
「打ち上げ３秒前！」
『ぺっ・ぺっ・ぺっ・ぺー！』
サイトー３はヘッドライトを点滅させ、凄まじいスピードで空の彼方へ消えた。

研究者らは歓声を上げた。サイトー３は大気圏を突き抜けたのだ。世界初ヒト型ロケット打ち上げ成功の瞬間である。