人魚の肢

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ユニットバスから引きちぎったシャワーカーテンが、新品のベッドを水浸しにしたのを見ても、今更腹は立たなかった。
寒演色の昼白灯の下、くるぶしで交差する薄青い肢は、まるで九分九厘で人間に成りそこなった、人魚の尻尾だった。
歩く度に走る痛みは、ひれから真二つに割かれた痛みだったのか?訊いて答えるはずもなし、立ち込めた磯臭さに辟易しつつ、ベッドを迂回して窓へ泳ぐ。
予想通り、防水テープでぴっちり目張りしてある。枠ごと蹴って外す。ぶち破ったドアも同様だったが、執拗な遮蔽に怖気が込み上げた。

――びたん。
湿った音が濡れたカーテンを叩く。
肢がすねまで露出した。這いずった指が閉じたまま、まとい付くぬめりを掻き均し――びたん。もう一度、完全にひれの動作で跳ね、停まった。
泡になって消えるかと思いきや、当たり前に腐るんだな。
異様に冷静にイカレた頭は、拾ったナイフを蛆の湧いた手に戻すべきか思案していた。
ホラー
公開:19/08/06 00:00
更新:19/08/05 23:59

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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