夏の夜みち

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残業ですっかり帰りが遅くなった。駅から自宅まで自転車で走る。
疲れた足取りのサラリーマン。急ぎ足の女の子。ゆらゆら歩く酔っ払い。塾帰りの中学生。
いつもの風景に混じって、着物姿に裸足の幼女。擦り切れた服を着た遭難者みたいな男性。病院のパジャマにスリッパのお婆さん。この時期だけに現れる帰宅者たち。

ああ、お盆か。
いつもの住宅街。今夜は少し様子が違う。

もう家族が住んでいないのか、家族が迎えてくれなかったのか。あちこちの家の前に、頭を垂れてしゃがみこんだり、ぼんやり佇んでる人たちがいる。

こちらを見た。いけない、目を合わせちゃ。
「あーあいつー、見えてるー」
ゆらりと一人が立ち上がり、ぞろぞろ後を追いかけて来る。
逃げなきゃ。
でも、もしかしてあの中にお父さんがいるかもと、後ろを振り返る。

「こっちだ、急げ」
あ、
懐かしい背の高い痩せた背中が、生きてるみたいに私の前を走っていた。
その他
公開:19/08/05 12:45

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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