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僕は朝からずっと、知らない人の靴を磨いている。
その知らない人は、いわゆるおじさんで、スーツを着たおじさんで、話によれば、僕が知らない町の町長さんなのだという。
誰であろうと僕にはお客さんなわけだけれど、もうすぐ正午になることを考えると、正直割に合わず、このまま靴を磨き続けることに迷いが出てきた。
「あの」
「やっと声を聴けた」
「もう、5時間になります」
「そうだね」
「その」
「時間給は払うよ。一回分の料金って訳にはいかないからね」
それからまた僕は、夕方になるまで磨き続けた。
当たり前だけれど、もう磨くべきところはない。それでも野口さんが、まだ続けて欲しそうな表情を見せるから、僕は磨き続けた。
野口さんは、僕の父に恨みがあるのだという。そしてこれは復讐なのだと言った。
そんな気持ちを知って動揺したけれど、野口さんはお客さんだから、僕は朝まで磨き続ける。
きっとそれが、父の供養だから。
公開:19/08/06 20:55

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