物覚え茗荷

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「茗荷茗荷っと……ん?」
いつもの八百屋で買い物をしていると、不思議な品名が目に入った。
「すみませーん。この『物覚え茗荷』って何ですか?」
奥から八百屋のおじさんが出てきて笑う。
「こいつぁ最近できた品種でね。茗荷ってのは物忘れが酷くなるって言うだろう?知らない?そうなんだよ。で、それじゃ茗荷も売れないってんで、できたのさ」
見た目は普通の茗荷と変わらない。だがおじさんが言うには圧倒的に物覚えが良くなるらしい。仕事が捗るかもしれないしと買って帰りさっそく冷奴に乗せて食べてみた。
翌日、朝から上司に呼ばれた私はこっぴどく叱られた。どうも納品書が間違っていたらしい。沈んだ気持のまま帰宅したが、一晩寝れば忘れるだろうと思っていた。ところが、翌日になっても翌々日になっても、あの上司の怒った顔が忘れられない。私は慌ててあの八百屋に駆け込んだ。

「すみませーん。いつもの『物忘れ茗荷』をください!」
その他
公開:19/08/02 13:08

ささらい りく

簓井 陸(ささらい りく)

気まぐれに文字を書いています。
ファンタジックな文章が好き。

400字の世界を旅したい、そういう人間の形をしたなにかです。

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