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医者から末期癌と診断され、もう手遅れだとさじを投げられた。
おれは仕事をやめ、治療に専念した。家族のために簡単に死ぬわけはいかない。とはいえ、治療費を潤沢につぎ込めるほどの資産もない。
支えは家族からの励ましだけだ。家族が探してきた民間療法を片っ端から試した。数ヵ月後に再来院したところ、最初の診断が間違っていたのか、癌がきれいに消えていた。
「もう大丈夫ですよ」
そう医者に言われたとき、心から神に感謝した。いままで支えてくれた家族のために頑張ろうと思った。助かった命だから、これかれらは世のため人のために生きることを誓った。目に付いた募金箱には必ず小銭を投げ入れた。老人には座席を譲り、幼い子供には優しく声をかけた。
世の中が急に明るくなった気分だ。
今日もおれは仕事のために満員電車に乗り込んだ。駅前に4つも募金箱が並んでいたので、ひときわ多く稼がないといけない。
スリの銀二の指先がしなった。
青春
公開:19/08/03 13:34

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