むれるさかな

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 蒸されているのではなく、蒸れている。
 魚はそう主張した。そしてまた、群れをなしているのでもないことは、わたしの目の前にぼて、とふてぶてしく転がる白い目がひとつであることから明らかだ。
 その魚は、風呂場にいた。仕事に疲れて帰ってきたわたしを優しく、その生臭い体臭で包み込んだ。なぜ風呂場にいたのかと聞いたところに、先ほどの答えである。魚は、自ら進んで、蒸れることを選んだのだ。

 人間は、汗をかく。サウナなんかで老廃物をみんな出しつくしてすっきりして、さあ善行の貯蓄ができた、とばかりに添加物まみれの食事を楽しむ。魚が蒸れることを選んだというのと、人間のサウナ心理とは同じなのかと思ったわたしだったが、ふと気付いた。
 一刻も早く眠りたいのだ。明日の朝まで、あと三時間しかない。
 「布団、敷いておきましたよ」
 魚の善行貯蓄に甘え、横になる。思えば初めから優しかった。
 布団は生臭いけれど。
SF
公開:19/07/31 21:04

魚倉温( 五分前のあっち )

いつも心におさかなを。

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