夏火偲

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八月一日は花火があるので、休みを取った。
そんなもの理由になるかと、昔は部下を叱り付けたものだが、日々を刻む行事ごとの愛しさが、この齢になって身に沁みる。
着馴れて色の褪めた甚平を着、団扇を片手に時を待つ。冷房を止め、灯りを消し、網戸を抜ける夜気と、銅の風鈴の音に涼みながら、手水鉢に浸けていた小玉の西瓜を切った。
隣に家内が笑う。紺の浴衣に白く抜いた桔梗が笑う。同じ『あさがお』ならこちらが良いと、珍しく我がままを言った。よほど気に入ったか、いつもそればかり着ていた。

打ち上げの初め。私は酒をやらんので、ラムネを開ける。
花火とビー玉の沈む音が重なる。コップに半分ずつ分けて飲む。
――瓶の中、丸い火花が逆さに開くのを面白がって、空を留守に二人して覗いた。飽きもせず子供の様に。
あの夏も随分と遠い。

音を届ける為だけに、縁へ出て、写真と花火を聞く。
目に映すのは、再縁の岸でと約束している。
青春
公開:19/07/31 20:59

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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