吸い込まれる

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私の目の前には空き箱があった。

「あの箱の中を通り抜けてみたい。体のどこにも触れずに通り抜けられたら幸せになれる気がする」

なぜか、私はそう思った。根拠はない。なんとなくだ
「よし、やってみよう」
やると決めたら私はストレッチ体操で体を温め、急に肉離れが起きない様に配慮した
頭の中では何度も成功した自分の姿をシュミュレーションする。
「よし、俺はやれる、俺はやれる、俺はやれる」
自分自身に暗示も忘れない。

会場では大勢の観客が私の様子をじっと固唾を飲んで見ている。
一瞬、騒がしかった会場の空気が静かになった。

「よし、行きます」
ダダダダ、ダンッ
私は助走をつけ、思いっきりジャンプした。
その直後、私の周りの空間がスローモーションの様にゆっくり見えた。
空き箱と私との距離が徐々に近づく
大きく開いた空き箱の口が私を迎えた
私は吸い込まれる様に通り抜ける。
ズサーーー
猫は幸せだった
公開:19/07/31 16:00
更新:19/07/31 16:04

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