星空インク(2)

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夜空の星が消えてから一体どれほどの歳月が過ぎただろうか。
人々は夜になっても空を見上げなくなった。もし星を見たければプラネタリウムに行くしかない。

子どもの頃、おじいちゃんの部屋で不思議なものを見せてもらった。星空インクというものだった。小さな瓶の中に濃い青色のインク。
部屋の電気を消して使うと、星空みたいにキラキラ光ってとても綺麗だった。

もう一度、そのインクを見てみたくなった。おじいちゃんの部屋に行く。

瓶の中には、変わらず星々が輝いていた。
ふと、あることを思いつく。

海にやってきた。
波が穏やかに揺れる。
僕はインクの蓋を開け、海にその液体を垂らした。

ざあ。
波に星々が溶け込んでいく。
そして──。
波間に揺れる光が、夜空に映し出された。
まるでヴェールがかかっていくように、星空が世界中に広がっていく。

星が夜空に戻ったその日、僕は久し振りにぐっすり眠れた気がした。
ファンタジー
公開:19/08/02 07:36
更新:19/08/02 07:39

たけなが


たくさん物語が作れるよう、精進します。
よろしくお願いします!

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