ほれるさかな

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 自主性のつよい魚は、私が目を覚ました後もそこにいた。
 ごろりと相変わらず白ぼけた眼球を茹でたてのように香り立つ生臭さのただなかに横たえて、その魚はやはり自主的に、そこにいた。
 「今日は休みじゃないの」
 魚は、流暢な人間の言葉でそう問うてくる。

 私の一日は、おおよそ二分以内の誤差の中で行動することで成り立っていた。特に朝は、すこしもぼんやりとしている時間などない。アラームの音で瞼をこじ開けて、用を足して、脳みそが起き上がってくる前に身体を動かし、無理矢理に家を出るのだ。
 そうでもしなければ、乗車率一二〇パーセントとも言われる生臭いコンテナに乗りこむことなどできない。
 世の中みんなそういうものだと思っていたが、便所の蓋の上に身を横たえるそれは微動だにしない。
 「実際、そうでもないのかもしれない」
 私が呟くと、魚は嬉しそうに尾びれをしならせた。
 「じゃあ、今日は休みだ」
SF
公開:19/08/01 23:27

魚倉温( 五分前のあっち )

いつも心におさかなを。

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