百万に一つの偶然

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 研究室を出て黄昏時の神保町界隈を歩いていると、目の前の古書店から大きなベレー帽を被った女性が出てきて、フワッと甘い薔薇のような芳香が通り過ぎていった。私はその店に入り、レジ前に無造作に置かれていた、シュールレアリズムの絵画論やダダの詩論を、店主が値付け前だというのを無理を言って購入した。
 帰宅後、買ってきた本を読み始めると、黴のような枯草のような臭いが立ち上り、活字を追っているのか、匂いを追っているのか分からなくなった。
 ふと、細いペンで引かれた黒い線が目に入った。無意識にその線を指で払うと、線は指に纏わりついてきた。それは一本の長い黒髪だったのだ。
 私はさらにページを捲り、購入した本の中から合計5本の長い黒髪を入手した。
 翌日、研究室でその毛髪の分析を行うと、それは大麻常習者のものであることが判明した。それが、昨日すれ違った女性だったとしたら、どんなに素敵だろうと、私は思った。
恋愛
公開:19/08/01 20:58
更新:19/09/09 08:59

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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