最終話 紺碧の正体

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この地へ来て、早数十年。
故郷にはない、夏の暑さや冬の寒さにも慣れた。

タクシーの運転手に成り済まし、客の話を聞くことで此処の真実を調べた。
此処には色々な人がいる。
現在に満足できず戻れない過去の思い出に縋る人、夜遊びが過ぎて自宅へ帰りそびれた人、病床に伏す愛する人のために命がけで金を手に入れようとした人、人様のタクシーの中で無理心中した親子、もう自分の寿命も残り少ないのに死んでしまった妻に花束を届けようという無謀な老人。
美しい事も、醜い事もたくさん見えた。

そうこうしているうちに、故郷へ帰る時が来た。
調査報告書には、こう書こう。
「この惑星系の住民は精一杯生きている。私も愛着が沸いてしまった。侵略し、滅ぼすのは少し待って欲しい」

この星でタクシーに偽装して使い倒した宇宙船の窓には、紺碧の美しい惑星が輝いていた。
SF
公開:19/07/30 22:30
更新:19/08/01 02:07
紺碧タクシー

TAMAUSA825( 東京と神奈川 )

登場することが趣味です。

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