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男が結婚した時、妻には愛という小学生の娘がいた。無口で無愛想。愛は男に懐こうとはしなかった。妻は「女の子は難しいのよ」と気しなかった。妻の留守中、愛はいつも無表情に男を見つめていた。男は愛の吸い込まれるような大きな瞳が苦手だった。星空のように澄んだ瞳の奥で何を考えているのか想像もつかなかった。
「見るなよ」
愛は黙ったまま視線を逸らさない。
「見るなっつってんだろ!」
衝動的に男は愛を殴った。バチンと頬を打たれても、愛は怯えることなく、ただじっと男を見つめていた。
男は激昂し台所の包丁を手に取った。それでも愛は表情を変えない。気がつくと、胸から血を流しピクリとも動かない愛と、右手の包丁。
愛の瞳は見開いたまま男の顔を映していた。堪らず男は包丁を愛の瞳に突き刺した。すると音もなく包丁が瞳の中に消えて、次いで男の右手が飲みこまれた。
瞳が男の身体を全て吸い込むと、役目を終えたように瞼が閉じた。
ホラー
公開:19/07/30 08:03
更新:19/08/05 18:19

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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