紫陽花の国の姫君たち(表)

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「他のことは、何も考えてはなりませぬ。花を落とすときは、ただ一心に美しい手毬になりますようにと願いながら、鋏に力をこめるのですよ」
そう言って母君が紫陽花の枝を切ると、地に着く前に、花は美しい紫の手毬になって転がった。
「貴方達もやってごらんなさい」
できたのは、姉姫だけだった。

時はたち、姉姫は苦しんでいた。
もうすぐ妹が結婚をする。その婚約者に惚れたのだ。
ずっと望まれるがままに手毬を作っている間に、妹は恋をして幸せになり、私だけ単調な日々を過ごすのか。

姉の苦悩など知らず、妹は「嫁入り道具に手毬が欲しい」という。
姉姫は涙をこらえながら、紫陽花を切るため鋏に力を入れた。

ごとり

生首が転がった。見ると、妹の婚約者の顔だった。
そういうことなのか、これは、手毬を作るものではなかったのか。
姉姫は、今度はしっかり妹の顔を思い浮かべながら、ぐっと断ち切り鋏に力を込めた。
ホラー
公開:19/07/31 16:00

七下(ななさがり)

旧「はるぽこ」です。
読んでいただき、ありがとうございます。

400字制限の長さと短さの間で、いつも悶えています。
指摘もコメントも、いただけたらすべてを励みにします、大歓迎です。

【優秀賞】
渋谷コンテスト「夜更けのハイビスカス」

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