蝉喰み

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 山奥の民宿の庭で夕食が始まった。宿のお婆さんが作った郷土料理はとてもおいしくて、僕たちはニコニコしていた。
 ただ、時折、山から「ジ~」という大きな音が聞こえてくるのが気になった。宿のお爺さんに「何の音ですか?」と尋ねると「セミハミだ」と言う。僕は、お父さんのシャツを引っ張った。
「セミハミって何です?」とお父さんが尋ねると、お爺さんは鉄板の肉をひっくり返しながら説明してくれた。
「『蝉喰み』は蝉を食う。『ジ~』ってのは蝉の断末魔だ。夏の間は一晩中続く。『蝉喰み』がいるから蝉が増えすぎなくてすむ。だが『蝉喰み』が増えると蝉が減って悪さをするから、狩るんだ」
 そこへお婆さんが壷を持ってやってくると、お母さんに言った。
「『蝉喰み』一頭で、今夜のお献立がみんな作れるのよ」
「これもうまいぞ」
 と、お爺さんが壷から、長くて白いものを摘み上げて啜った。
 山に、また「ジ~」という音が響いた。
その他
公開:19/07/30 19:50

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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