自脳車教習所

自動運転の普及により、最近は自脳車教習所が大流行だ。目的地まで単純に移動するだけでなく、例えば、時々寄り道も楽しんでいる人がその実績データと愛車を教習所へ持ち込むと、クルマのAIに手を加えて自動運転をカスタマイズしてくれるのだ。

ただ、私の場合は自動運転車で移動する間、妻との会話が楽しめれば十分。自脳車教習所とは無縁だと思っていた。そんな私の愛車を子供たちが自脳車教習所へ持ち込んだのは、妻が55歳で他界してスグだった。

「何のため？」

そんな疑問も教習所から戻ってきた愛車のスタートボタンを押した瞬間、消え失せた。車内のARスクリーンに妻が映し出され、以前のように妻との会話が楽しめたのだ。

「ありがとう。これでまた、外出を楽しめるよ」

以来、私は愛車で出かけることがまた増えた。

でも最近、ちょっと不満も。見た目も、声も、発想も、妻は55歳のまま。うらやましくて仕方ないのだ。