紙紐の男

12
11

 きっかけは、妻の元に届く通販カタログを古紙回収に出そうと、紙紐で十文字に縛っていた時でした。私が紙紐を締めると、モデルさんの顔に皺が寄ったんです。
 心臓の奥というか、脳味噌の裏というか、骨盤の中心部というか…… その辺りに、ズンッ! と何かが走りました。
 どこにも隙のないモデルさんの顔や身体を、一束128円の紙紐が無慈悲に締め付けている。モデルさんは、自分がそんな目に遭っていることなど知らないまま、平然とポーズをキメ続けている。そのアンバランス!
 それ以来、私はなるべくモデルさんがモデルさんらしくキメている写真が大きく写っているページを選び、そのページを一番上に開いて縛るようになりましたし、モデルさんの顔や身体の上をなるべく無遠慮に紙紐が通過するような縛り方を工夫したりしています。
 いえ。生きている女性を縛りたいとは思いません。そういうこととは全く別の、個人のささやかな趣味です。
その他
公開:19/07/29 13:57
更新:19/07/29 13:57

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容