傷跡 ―ひまわりの並べ方

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 オヤジが描いた祭壇の希望図を、葬儀社の人が畳の上に広げた。オヤジ自身が選んだ遺影が、沢山の大きな向日葵に埋もれるように飾られていた。それを見て俺は、左手の傷跡をさすった。
 小学校4年生の夏休み。庭の大きなひまわりをオヤジと見上げた日の夜、俺はオヤジが工場で使うカッターナイフで、そのひまわりを切り倒した。当時は、何故そんなことをしたのか分からなかった。ただ怖かったのだ。オヤジを見下ろすひまわりが憎かったのだ。
「おとうさんのほうがすごいんだから」と、俺は治療の間中泣いていたらしい。
 その後オヤジは独立開業して、懸命に働き続けた。贅沢ではないまでも、不自由のない暮らしをしてこられたのはオヤジのお陰だ。
「おとうさん、ひまわりが好きだったな」
 オフクロが言った。
 葬式の日。俺とオフクロとで相談して、オヤジの遺影を一番高いところに掲げ、全てのひまわりがその遺影を仰ぐように並べてもらった。
その他
公開:19/07/26 09:45

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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