やしろ七不思議~その六、さかさ狛犬-阿

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『おやめ』
声は横から聞こえた。
甘い女声。狛犬の吽が、唸りを止めて尻尾を振る。
『探し物はそこにない』
丸い輪郭。細面に垂れ耳。吽と対の狛犬、阿だ。
「ある。全部辿れば見付かる」
七不思議は残り一つ。狛犬が外れなら、そこにあるはずだ。

ユキ。いつも一緒に遊んだ幼馴染。父親の転勤で引っ越す事になり、けれど僕は、ずっとユキといたかった。
願いが叶う七不思議。教えてくれたのはユキで、やろうと言い出したのは僕だ。
恐らく途中で失敗し、ユキは不思議に囚われた。結果、僕はユキを『ユキ』としか憶えておらず、他の人間からは、ユキに関する情報が丸ごと消えた。
「ユキは七つのどれかにいる。僕が助ける!」
生死を逆転するさかさ狛犬。ユキが死人に連れ去られたなら、再び結界を壊し、呼び返すしかない。

ぱんと音が爆ぜ、手鏡が飛ぶ。
吽が前脚で払ったのだ。飛んだ鏡が注連縄に当たるなり、撚りが解れて激しくうねった。
ファンタジー
公開:19/07/24 01:34

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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