栄冠は君に

　――俺だって、野球は好きじゃなかったよ。

　昔はな、ご飯どきにテレビでやっててな。よく親父にチャンネル変えられたもんだ。

　それが変わったのはいつだったか。
　兄貴が甲子園の土をもらってきたんだ。

　知り合いの、そのまた知り合いの、ベンチの奴から分けてもらったんだと。
　甲子園の土ったって何が違うんだと、俺がこっそり袋を開けたら、ひっくり返してこぼしちまってな。

　したら、景色が急に変わって。
　何故か、球場にいるんだよ。周りには、応援団やら何やらたくさんの人がいて。歓声がすごかった。
　季節は夏だし、暑いし。

　俺は、甲子園のマウンドにいたんだ。

　汗を拭って、サインをじっと見て、頷いて。
　構えてからの、力一杯、ミットに向かって投げ込んだ。
　バッターが空振りした瞬間……。

　景色は元に戻ってた。

　夢じゃないかって？　そうかもな。
　だから、お前が現実にするんだよ。