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夜通し降った雨がやんで、病床の妻が朝の散歩に出たいと言った。
「隣を歩くのはイヤ。前を歩いて。街の中はイヤ。森にして。帽子を頂戴。靴を履かせて。そんな目で見ないで。私のこと面倒なんでしょ。もういいわ。あなたとは二度と出かけない。ここで独りで死ぬ。出て行って。顔も見たくない。はい、さんはい」
「いいかげんにしろよ!」
「あぁ…」
「どう」
「効く。少し楽になったわ」
主治医からはいいかげんにしろよを処方されている。ばかやろうとか、もう出ていけ、好きな女ができた、あいつのおなかには俺の子が、なども処方されたが、妻の症状には効果がなかった。朝昼晩いいかげんにしろよを飲みこむことが、現時点での最善の治療法だ。言語学者の努力で新薬も発見されているが、どれもマウスには言えても、妻に言えるような言葉ではない。言えば私の倫理観や羞恥心が崩壊する。
それでも私は新薬を告げた。
妻は絶叫し、私のもとを去った。
公開:19/07/23 19:50

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